<�絶対に甘党宣言!>夏の日の1993糖分【がやてっくグルメ】
- 2022/01/30 06:00
- あー さん
- がやグルメ
<ダムダムダム>
<キュキュッ>
<ナイシュー>
県大会の初戦を突破するために朝から晩まで時間を費やしてきた。
雄二の高校は弱小高校にも関わらず。
市内大会で優勝することすら難しい弱小高校が、県大会の初戦突破を掲げていた。
優勝の先を目指すことでモチベーションやら日々の練習の質の向上やらを上げるために立てられた浅はかな監督の目標設定だった。
そう、浅はかな目標設定。
<ダムダムダム>
<キュキュッ>
<ナイシュー>
もちろん、雄二に責任があることは理解していた。
雄二は中学の頃、キャプテンとして無名中学校を県大会決勝まで導いてしまった。
何をやるにしても気持ちが入りにくい性格なのか、3日坊主が代名詞となった人生で、雄二は好きでもないバスケの才能が開花してしまったのだ。
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世の中はウインターカップ決勝で能代工業が勝つだとか市立船橋が覆すとかで賑わっていた1998年の夏。
雄二は当時小学5年生だった。
確か数年前には「君が好きだと叫びたい」が街中で流れていたが、そんな時代も落ち着きを取り戻し、夏は迷惑そうに猛威を振るっていた。
3人に1人がモスコミュールを注文した夏。
北越谷駅で購入した2枚の切符。
母親に汗ばんだ手を引かれて連れて行かれた体育館。
こだまする応援。
<ダムダムダム>
<キュキュッ>
<ナイシュー>
試合結果は覚えていない。
田臥勇太やら若槻徹やら率いる能代工業が強かったことは鮮明に記憶している。
もちろん順当に優勝したからこそ田臥が世界に旅立ったのかもしれないし、関係ないのかもしれない。
しかし、そんなことは雄二にとってどうでもよいことだった。
そして、classの「夏の日の1993」が流れていた帰りのカフェ。
<カランカラン>
<いらっしゃいませ>
<お好きな席へどうぞ>
何の変哲もない日常が流れていた。
「ん?ちょっと待てよ。」
雄二は我に返った。
「ここは、、、当時母親ときたカフェじゃないか。」
もしくは、まだ回想の中にいるのかもしれない。
現実世界では「バック・トゥ・ザ・フューチャー」ような演出もなく過去に戻ってしまうものなのか。
しかし、雄二は分かっていた。
先日まで付き合っていた樹里から送られてきたPHSのメッセージをクリックしiモード経由で宣言をしていたのだ。
そう、「甘党宣言」を。
「もう今日で終わりにしよう。」
樹里の言葉が頭をよぎる。
店員が悩むことも確認することも、顔を見ることもなく机の上に差し出した。
雄二は無心で食べ続けていた。
甘い糖分で逃げ続ける自分を溶かすことはできない。
しかし、パフェを食べることで心の「何か」が満たされていく。
心の「何か」を。
雄二は自分が自分である感触が戻りつつあることに少し怯えて、笑った。
この感触を取り戻すために「甘党宣言」をしたのだ。
むしろ、もう一人の自分にさせられたのかもしれない。
<カランカラン>
<いらっしゃいませ>
<お好きな席へどうぞ>
・
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風が頬を気持ちよく駆け抜ける。
<ダムダムダム>
<キュキュッ>
<ナイシュー>
浅はかな目標は浅はかな自分と似ていた。
厳密には「今までの自分」と似ていた。
目標を達成できないことが当たり前の人生。
「もう今日で終わりにしよう。」
<ダムダムダム>
<キュキュッ>
<ナイシュー>
雄二は円陣を組み、キャプテンとしてメンバーに声をかけた。
「打倒、能代工業だ。」
雄二はボールを手に走り出した。
新しい「君」と共に。
~END~
※絶対に甘党宣言!の物語はフィクションですが、登場しているデザートは越谷市内の店舗で実際に提供されているデザートです。
※今回は「カフェマミーサ」さんのデザートでした。