<�絶対に甘党宣言!>渦【がやてっくグルメ】
- 2022/02/06 06:00
- あー さん
- がやグルメ
<ピンポーン>
<プシューガタン>
<ブロロン>
トメは市営のバスの中で外を眺めていた。
旦那が他界して20年近くが経つ。
そのころからトメは大きな感情のダムを作り思考を止め整理し、氷河の一角のように一部の記憶だけを出し入れして日常を過ごしてきた。
いや、厳密には日常を過ごせてきた。
<ピンポーン>
<プシューガタン>
<ブロロン>
トメは日課の一部でもある「市立病院経由花田行き」のバスに乗った。
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越谷市立病院病院に着くと、トメはふと1944年7月に40万人の疎開が計画されたことを思い出した。
もちろん、トメはその計画の「渦」に飲まれ、千葉県木更津市の祖母の家に預けられた。
疎開は子供たちを守るために計画された。
1944年の夏。
<三―ンミンミン>
<ギラギラギラ>
<ポタポタポタ>
もちろん、次世代兵士を温存するという目的であったことは誰もが察していた。
そう、誰もが察していた。
<トメさーん、1番の診察室へお入りください。トメさーん。>
トメは数年前から膝を悪くしていた。
骨粗鬆症で「骨密度」や「骨質」がなんたらかんたらで骨に異常をきたしているらしい。
しかし、トメにとっては「膝が悪い」という事実だけがリアリティのある真実だった。
<はい、お大事に>
診察が終わるとトメはまた「渦」を思い出した。
「なぜじゃろう。」
疑念を抱く思考の奥で、顕在意識に隠された潜在意識が大きくうなずいていた。
<ピンポーン>
<プシューガタン>
<ブロロン>
バスの扉が閉まった。
いや、バスの扉が閉まったように感じた。
しかし、現実は違った。
トメは年のせいにして現実を受け止めることを諦めようとしたが、諦めなかった。
「甘党宣言とはこういうことなんじゃな。」
そして、トメが座っている席にデザートが運ばれてきた。
一体、何十年ぶりだろうか。
疎開時代には考えられない光景だ。
帰りの喫茶店でデザートを食べる光景。
ふと気付いた。
「渦」に飲まれたことで旦那と出会えたのかもしれない。
そう思うと、不自由に思えていた人生も幾分マシに思えてきた。
<三―ンミンミン>
<ギラギラギラ>
<ポタポタポタ>
チーズケーキの味は当時をリアルに思い出させた。
昭和の香りは鼻を少し刺激しそのまま空へ消えていった。
その瞬間、潜在意識に移した記憶が一気に蘇ってきた。
「渦」に飲まれた夢や希望。
「渦」に飲まれた愛。
「渦」に作られた筋書き。
そして、旦那と初めてのデートで食べた喫茶店のチーズケーキの味。
トメは疎開の目的を察した時のように今を察した。
「人間、今が一番若い。」
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<ピンポーン>
<プシューガタン>
<ブロロン>
バス停を降りそのまま自宅に歩いた。
トメは膝が幾分軽くなっていることに気付いた。
「まだまだ諦めるわけにはいかんのう。」
トメは新聞の通信学習の欄に目を通した。
新しい「君」と共に。
~END~
※絶対に甘党宣言!の物語はフィクションですが、登場しているデザートは越谷市内の店舗で実際に提供されているデザートです。
※今回は「Cafe&Dining ARISTAR アリスター 越谷店」さんのデザートでした。