<�絶対に甘党宣言!>夢の上塗り【がやてっくグルメ】
- 2022/02/20 06:00
- あー さん
- がやグルメ

<ガタガタガタ>
<ピッ、ピッ、ピッ>
<ありがとうございました>
「今日はお客さんがたくさん来てくれるな。。。」
21年前の開店時は予想以上にお客様が来店してくれた。
それ以降、ピーク時は1日80万円以上の売上があった。
越谷の郊外立地としては十分すぎる収益を得ていた。
FC本部の社員も毎日のように通いサポートをしてくれていた。
今思えば、金のなる木のような存在だったのだろう。
そして、当時は「最後の日」がくるとは夢にも思ってもいなかった。
常連のお客様が後ろから不意に語りかけてきた。
「寂しいねぇ。。。引っ越してきてから毎日通ってたのに。」
<ガサガサガサ>
<ピッ、ピッ、ピッ>
<ありがとうございました>
・
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コンビニ業界は幾度も飽和していると言われながら成長をし続けてきた。
舞子は21年前を思い返す。
2021年。
21世紀の始まりの年。
東京ディズニーランドのディズニーシーが開園した年。
そして、舞子が1人オーナーとしてコンビニを開業した年。
「いったい私の人生はなんだったんだろう。」
開業した年、舞子は30歳。
当時婚約中の男性と一緒にコンビニを経営する予定だった。
状況的に舞子が契約を結ぶ運びになったが、契約後、男性は蒸発した。
それ以来、目の前の課題をただ解決する日々が続いた。
<ガサガサガサ>
<ピッ、ピッ、ピッ>
<ありがとうございました>
舞子の人生のスタートはネイリスト志望で美容業界に携わり、雇われの身で細々と働いていた。
「いつか開業したい。」
そんな思いをすぐに消えるマッチの火の程度に考えていた。
気付けば51歳。
本日の閉店最終日は全品半額セールを実施していた。
競合ができるたびに遠のいた元常連客も顔を出してくれた。
「本当に信じられないよ、大好きなお店だったのに。。。」
お客様にそう言われると嬉しい反面、「なぜ大好きなのに他店へ行ってしまうんだろう。」という気持ちが湧いてきた。
まるで海底で噴火した火山の溶岩のように。
そう、海底の溶岩のように。
一体、あと何度こんな気持ちを経験するのだろうか。
そう思うようになってから舞子はコンビニを辞めることを考え始めた。
<ガサガサガサ>
<ピッ、ピッ、ピッ>
<ありがとうございました>
お客様がレジにカゴを持ってきた。
そのカゴの中にチルドデザートの「大判焼き」があった。
その大判焼きを見ると同時に、ふと「甘党宣言」をしたことを思い出した。
<ガタガタガタ>
<ピッ、ピッ、ピッ>
<ありがとうございました>
お辞儀した顔を上げると、お店の前に立っていた。
古くも堂々とした店構えの店舗だ。
「なかなか渋い場所じゃない。」
今思えば、外で食事をすること自体、久しぶりだった。
売上不振に陥ってから店舗の廃棄商品しか口にしていなかった。
なんだか涙が溢れてきた。
店員はその涙に気遣うこともなく、商品を手渡した。



舞子は目の前の課題をひたすら解決してきた日々を改めて思い返した。
レジ接客、トイレ掃除、従業員の管理、お金の精算。
頬張った大判焼きから飛び込んできたあんこの粒が胃の中のコンビニ食品を浄化した。
浄化すると同時に、海の水が蒸発し溶岩が自由に吹き出す感触を取り戻した。
「そう、この日を待っていたのよ。」
舞子はこれからは自分を信じていくことを決めた。
遅すぎることはない。
この道の先にしか未来はない。
お辞儀から顔を上げると常連客が舞子が食べた大判焼きの味を知っていたかのようにほほ笑んでうなずいた。
<ガサガサガサ>
<ピッ、ピッ、ピッ>
<ありがとうございました>
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「舞子さんには本当にお世話になりました。この後の人生も頑張ってください。」
1年前に就任したばかりの20代の本部社員が言葉をかけてきた。
舞子はわずかにほほ笑んでから深くお礼をし、大袋の自宅へ自転車で向かった。
「また、全てを失った。」
舞子はポジティブに響かせた。
その声は透き通った冬の夜に自然と馴染んでよく響いた。
今更リアルに夢は叶えられないだろう。
しかし、さえない現実に夢を上塗りして夢っぽくすることはできるかもしれない。
そう考えるとワクワクしてきた。
「負けない戦いが続くのね。」
舞子は自宅に着くと空白になっていたカレンダーに予定を書き込んでいった。
新しい一歩を踏み出すために。
新しい「君」と共に。
~END~
※絶対に甘党宣言!の物語はフィクションですが、登場しているデザートは越谷市内の店舗で実際に提供されているデザートです。
※今回は「太郎焼」さんのデザートでした。